<女は筋肉 男は脂肪/第2章:体力・運動能力の男女差はなぜ生まれるか(6)>

特に重要なのは骨量と骨密度

ヒトの体には200あまりの骨が連結してあり、体を支えたり運動したりするときになくてはならない器官です。

骨の大きさや形にも、男女差がみられます。

頭蓋骨は女性より男性のほうが大きい傾向があり、体肢骨(上肢・下肢の骨)も男性のほうが大きく長くなっています。 いっぽう、左右の寛骨とその間の仙骨、尾骨からなる骨盤は女性のほうが大きく、男女差がもっとも著しい骨格です。 骨で特に重要なのは、骨量と骨密度です。

骨量も骨密度も発育とともに増加し、男女ともに20歳代から40歳代にかけて最大骨量に達し、その後徐々に減少していきます。

骨量が減少し、骨密度が低下すると、骨粗鬆症を引き起こしやすくなります。

骨粗鬆症は、骨の代謝バランスが崩れて骨がもろくなり、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格の疾患で、単なる骨の老化現象ではありません。

WHOでも、「骨粗鬆症は、低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増大する疾患である」と定義し、骨折は骨粗鬆症の結果として生じる合併症の1つであるとしています。

骨は常に生まれかわっている

驚かれるかもしれませんが、私たちの体を支えている骨は、一生を通じて日々新しく生まれかわっているのです。

骨芽細胞によって新しい骨をつくる「骨形成」と、破骨細胞によって骨を溶かす「骨吸収」がくり返される新陳代謝が絶えず行われています。これが、「骨リモデリング(骨再構築)」といわれるもので、すべての骨が生まれかわるのに約10年かかるといわれています。

いつもは骨吸収と骨形成のバランスは保たれ、機能的に連係(カップリング)しています。

しかし、加齢や、女性の場合は閉経、栄養、遺伝的・環境的要因などによってバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回るカップリング障害の状態が続くと、骨量は減少し、骨密度は低下してしまいます。さらには、骨の素材(材質特性)と、その素材をもとにつくられる構造特性(微細構造)によって決まる骨質にも悪影響が出ます。

原因としては、骨を形成するカルシウムやマグネシウムの不足、カルシウムの吸収に必要なビタミンDやビタミンKの不足、骨基質を合成する細胞機能や骨基質の周囲の環境の劣化、骨形成でのカルシウムの利用効率が悪くなる運動不足などが考えられます。

骨強度は、骨密度と骨質によって決まるために、そのどちらが低下しても骨の強度は低下し、大腿骨頚部や腰椎が骨折しやすくなります。骨折すると、入院などによって長期間の床上安静を強いられ、そのまま寝たきりにつながる可能性も出てきます。

骨粗鬆症は、男性に比べて女性に多くみられる疾患です。日本の骨粗鬆症の患者数は推計で約1280万人、男女比は約1対3、男性300万人、女性980万人と圧倒的に女性の割合が多くなっています。

その理由として考えられるのが、すでにくり返しふれてきた女性ホルモン・エストロゲンの存在です。エストロゲンには、骨形成を担う骨芽細胞を活発にする役割がありますが、閉経期になるとその分泌は激減して骨密度が急激に低下するためです。

骨粗鬆症を予防するには、閉経期に骨量の減少をおさえることが重要です。エストロゲンの減少を補うには、エストロゲンに似た働きをする大豆イソフラボンの効果が注目されています。

また、運動も効果的です。骨リモデリングは「荷重」によって刺激されますから、運動、特にレジスタンス運動によって力学的な刺激を多くすれば骨量は増加し、荷重をかけた部位の骨密度も増加します。

(つづく)

※「女は筋肉 男は脂肪」(樋口満、集英社新書)より抜粋